佐々木睦朗氏講演

「技術と歴史研究会」における佐々木氏の講演。構造工学的な造形法を開発、実践した話。接点の位置変化と解析を反復させて歪エネルギーを低下させる最適化や、拡張ESO法による既視感のある有機的形態の構築の話で、非常に面白かった。

自然形態を模倣するのではなく物理的原理から自然形態に類似の物が現れる。物事をメタファーやアナロジー、言葉遊びで述べる人が多いが、それは本質的なものではないというのも共感した。そういう観点でも立体メッシュによる連続体として解析して構築した形がRCという連続体で構成されるのは自然なことである。「デジタル技術」という字面で、「部品化された部材による離散的な構法」を連想するのはここでいうアナロジーである。部品化された部材に適した最適化手法は更なる技術発展が必要であろう。

現段階の建築界に満ちているネクラな話題からかけ離れた、とても久しぶりの夢のある話であった。これこそが、工学部建築学科にふさわしい目指すべき姿だと思う。工学的夢を求めて建築学科に来たのに、先端技術といえば、信頼性、サステイナビリティー、コストなど、後ろ向きな技術をやらざるを得ない現実に失望する人にとってとても明るい展望なのではないだろうか。このような技術を知ることすらなく学部時代を過ごしてしまったことが悔やまれる。

そしてこのような構造の発展は様式に繋がりうるのではないかと思った。石造単純梁構造の脆さから導かれるギリシャ建築の列柱空間、構造的なアーチやフライングバットレスから導かれたゴシック様式、鋳鉄によるアールヌーボーデザイン、鋼やRCが導いたモダニズム…と書くととても一面的だが、何か新しい建築を導いてくれるのではないかという予感を感じさせるに充分な講演だった。